大学物理

様々なトピックをひとつひとつ数式で

1.3.1.1 群と表現

定義

群とは次を満たす集合 $G$ である.

  1. 積について閉じている: $\forall a,b\in G,$ $c=ab\in G$ .

  2. 積が結合則を満たす: $a,b,c\in G,$ $a(bc)=(ab)c$ .

  3. 単位元が存在する: $e\in G$ s.t. $(\forall a\in G,\ ae=ea=a)$ .

  4. 逆元が存在する: $\forall a\in G,$ $\exists a^{-1}\in G$ s.t. $aa^{-1}=a^{-1}a=e$ .

これに加えて交換則 $\forall a,b\in G,$ $ab=ba$ を満たす群をアーベル群という.群 $G$ の元の個数を位数 $\abs{G}$ といい,有限であれば有限群という.元 $g\in G$ の位数とは $g^{n}=e$ となる最小の $n$ である.群 $G$ の表現とは,次を満たす写像 $D$ である.

  1. $G$ の元を線形演算子に移す.

  2. 単位元 $e\in G$ を恒等演算子に写す: $D(e)=1$ .

  3. 群の構造を変えない: $D(a)D(b)=D(ab)$

表現の線形空間の次元を表現の次元という.

正則表現

群 $G$ の元 $g _ {i}\in G$ を $\abs{G}$ 次元ベクトル空間の正規直交基底 $\ket{g _ {i}}$ にとり, $D(g _ {i})\ket{g _ {j}}=\ket{g _ {i}g _ {j}}$ を満たす線形演算子 $D(g _ {i})$ への写像 $D$ を正則表現という.これが表現であることは次で確かめられる. $$D(g _ {i})D(g _ {j})\ket{g}=\ket{g _ {i}g _ {j}g}=D(g _ {i}g _ {j})\ket{g}\quad\therefore D(g _ {i})D(g _ {j})=D(g _ {i}g _ {j})$$ 線形演算子は行列 $D(g)$ で書かれる. $D(g) _ {ij}=\mel{g _ {i}}{D(g)}{g _ {j}}$ にとり, $D(g _ {i})$ 同士の演算は行列の積とし,単位元は単位行列に写されるとすれば, $D$ は群の表現といえる. $$\begin{aligned} D(g _ {k}g _ {l}) _ {ij} & =\mel{g _ {i}}{D(g _ {k})D(g _ {l})}{g _ {j}} \\ & =\sum _ {m=1}^{\abs{G}}\mel{g _ {i}}{D(g _ {k})}{g _ {m}}\mel{g _ {m}}{D(g _ {l})}{g _ {j}}=D(g _ {k}) _ {im}D(g _ {l}) _ {mj} \end{aligned}$$ 行列 $D(g _ {i})$ がなす群を一般化線形群 $GL(n,\mathbb{C})$ というため,正則表現を一般化線形群への準同型(積構造を変えない)写像といえる.

既約表現

同値な表現

線形演算子 $D(g)$ に対し相似変換 $D'(g)=S^{-1}D(g)S$ をすれば基底の取り方が異なる表現 $D'$ を取れる.このとき $D'$ を $D$ と同値な表現という.

可約と既約

線形空間 $V$ への写像 $D$ が可約表現であるとは次を満たす部分空間 $W\subset V$ が存在することをいう.それは任意のベクトル $w\in W$ が任意の $D(g)$ で $W$ に留まる: $\forall w\in W,$ $\forall g\in G,$ $D(g)w\in W$ .このとき $W$ を不変部分空間といい,可約表現以外を既約表現という.また, $V$ が不変部分空間の直和に分解できるとき完全可約という.自明な表現 $D(g _ {i})=1$ は常に既約である.

可約と完全可約

表現 $D(g)$ が可約とは表現空間のある部分空間 $W$ への任意の射影演算子 $P$ について $\forall g\in G,$ $PD(g)P=D(g)P$ とできることである.また,次のようなブロック行列に相似変換できることである. $$S^{-1}D(g)S=\left(\begin{array}{cc} d _ {1}(g) & A(g) \\ O & d _ {2}(g) \end{array}\right)=D'(g)\qc P=\mqty(\dmat{I _ {n},O})$$ $d _ {1}(g)$ を $n$ 次正方行列とすると,上 $n$ 成分を残して0にする $P$ によって $PD'(g)P=D'(g)P$ となる.可約でない表現を既約といい,自明な表現も既約表現に含む.特に $A(g)=O$ で $D(g)$ が既約表現にブロック対角化された場合が完全可約で,その表現は部分表現 $d _ {j}(g)$ の直和という.このとき $(I-P)D(g)(I-P)=D(g)(I-P)$ が成立している.したがって $I-P$ も不変部分空間への射影であり, $D(g)$ はブロック対角化される.

基本的な定理

定理
有限群の表現はユニタリ表現と同値な表現である.

Proof. 有限群 $G$ の表現 $D$ についてエルミート演算子 $S$ を定義する. $$S=\sum _ {g\in G}D(g)^{\dagger}D(g)$$ これを対角化するユニタリ行列を $U$ とすると $S=U^{\dagger}\Lambda U$ で対角化できる. $S$ の固有値 $\lambda$ の固有ベクトル $\vb*{v}$ について $(\vb*{v},S\vb*{v})=\sum _ {g\in G}\norm{D(g)\vb*{v}}^{2}$ は各 $g$ で非負でかつ $g$ が単位元のときは正.左辺は $\lambda\norm{\vb*{v}}^{2}$ だから固有値は正で,次の相似変換ができる. $$D'(g)=XD(g)X^{-1}\qc X=U^{\dagger}\Lambda^{\frac{1}{2}}U\qc\Lambda^{\frac{1}{2}}=\mqty(\dmat{\sqrt{\lambda _ {1}},\sqrt{\lambda _ {2}},\ddots})$$ $X$ はエルミートである.すると表現 $D'$ はユニタリである. $$\begin{aligned} D'(g)^{\dagger}D'(g) & =(X^{-1}D(g)^{\dagger}X)(XD(g)X^{-1})=X^{-1}D(g)^{\dagger}SD(g)X^{-1} \\ & =\sum _ {h\in G}X^{-1}D(g)^{\dagger}D(h)^{\dagger}D(h)D(g)X^{-1}=\sum _ {h\in G}X^{-1}D(hg)^{\dagger}D(hg)X^{-1} \\ & =X^{-1}SX^{-1}=X^{-1}X^{2}X^{-1}=1 \end{aligned}$$ よって任意の有限群の表現はユニタリ表現と等価である. ◻

定理
有限群の可約表現は完全可約である.

Proof. $D$ が群 $G$ の可約表現なら $PD(g)P=D(g)P$ $\forall g\in G$ となる射影演算子 $P$ が存在する. $D$ はユニタリ表現 $D(g)^{\dagger}=D(g^{-1})$ にとれるから $PD(g^{-1})P=PD(g^{-1})$ . $g^{-1}$ を $g$ に置きなおして,右辺を移項して $D(g)(1-P)$ を加えれば $(1-P)D(g)(1-P)=D(g)(1-P)$ $\forall g\in G$ .これを既約になるまで繰り返せば完全可約といえる. ◻