ローレンツ群の基礎
- 場の量子論 - 3. 発展編 - 1. 超対称性 - 2. 超対称性代数 - 2. ローレンツ群の基礎
Advanced Description
ミンコフスキー空間における対称性、特にローレンツ変換とその背後にあるローレンツ群について詳しく解説します。このテーマは相対論的量子場理論における基本的な枠組みを形成する重要な内容です。
ミンコフスキー空間とその基本構造
ミンコフスキー空間とは、4次元の時空 $\mathbb{R}^{1,3}$ を指します。この空間は特殊相対性理論の舞台として機能し、次のような ミンコフスキー計量 $\eta _ {\mu \nu}$ を持ちます:
$$ \eta _ {\mu \nu} = \text{diag}(-1, +1, +1, +1) $$
ここで、
$-1$ は時間成分を、
$+1, +1, +1$ は空間成分を表します。
この計量を用いて、時空の計量(不変量)は次の式で計算されます:
$$ ds^{2} = \eta _ {\mu \nu} dx ^ {\mu} dx ^ {\nu} $$
この式が「ミンコフスキー空間の幾何」を定義し、空間と時間の構造を保つ変換がローレンツ変換と呼ばれます。
ローレンツ変換
ローレンツ変換とは、ミンコフスキー計量 $\eta _ {\mu \nu}$ を保存するような座標変換を指します。具体的には、座標変換 $x ^ {\mu} \to \Lambda ^ {\mu} _ {\ \nu} x ^ {\nu}$ を施したとき、次の条件を満たします:
$$ \Lambda ^ {T} \eta \Lambda = \eta $$
ここで、
${\Lambda ^ {\mu}} _ {\nu}$ はローレンツ変換行列、
$\Lambda ^ {T}$ はその転置行列です。
この保存条件により、ミンコフスキー空間の構造(すなわち $ds^{2}$ が不変)が保証されます。
本義ローレンツ群 $SO^{+}(1,3)$ の特徴
本義(正規)ローレンツ群 $SO^{+}(1,3)$ とは、ローレンツ群 $O(1,3)$ に含まれる変換のうち、パラメータを連続的に変化させることで単位行列へと変化できる要素の群です。この要素に対応する4元ベクトル $x^{\mu}$ のローレンツ変換 ${\Lambda^{\mu}}_{\nu}$ の特徴は次の通りです:
行列式の条件: $$\det(\Lambda) = 1$$
この条件は、時間反転(T変換)と空間反転(P変換)を含まないことを意味します。両方の反転(PT変換)をした場合、行列式の条件を満たすので,これを2の条件で除外します.この条件は、多くの群の名前の「特殊」(S: Special)が表している条件です。なので、この条件を満たして2の条件を満たさない行列の構造に対応する群を $SO(1,3)$ と書きます。時間反転の条件: $${\Lambda ^ {0}} _ {0} > 0$$
この条件は、時間反転(T変換)を含まないことを示します。1の条件に加えてこの制限を加えた行列の構造に対応する部分群を本義ローレンツ変換 $SO^{+} (1,3)$ と呼びます。あるいは単にローレンツ群と呼んだり、 $SO(1,3)$ と書くこともあります。
ローレンツ変換の種類
ローレンツ変換には、大きく分けて次の種類があります。
連続変換:
- 回転:空間の回転変換を表します。
- ブースト:時間と空間の混合(相対運動に伴う変換)を表します。
離散変換:
- パリティ変換(空間反転):
$$\Lambda = \text{diag}(1, -1, -1, -1)$$
これは空間の符号を反転させる変換です。P変換とも呼ばれます。 - 時間反転:
$$\Lambda = \text{diag}(-1, 1, 1, 1)$$
これは時間の符号を反転させる変換です。T変換とも呼ばれます。
- パリティ変換(空間反転):
$$\Lambda = \text{diag}(1, -1, -1, -1)$$
本義ローレンツ群 $SO^{+}(1,3)$ は連続変換だけで構成されます。一般のローレンツ変換 $O(1,3)$ はこれにP変換やT変換、PT変換を組み合わせた変換の群です。
まとめ
ローレンツ群 $SO(1,3)$ は、ミンコフスキー空間の基本的な対称性を記述する群であり、その要素は空間と時間の回転(ブーストや回転)や、パリティ、時間反転といった変換の構造を表します。この数学的構造は、特殊相対性理論や相対論的場の量子論において、時空の性質や物理法則の対称性を説明する上で極めて重要な役割を果たします。
スピノル表現とローレンツ群
物理学、特に素粒子物理学や場の量子論において非常に重要な概念である「スピノル表現」と「ローレンツ群」の関係性について説明します。スピノルは、 $x^{\mu}$ などの通常のベクトルとは異なる振る舞いをする物理量であり、電子のようなフェルミオン(物質を構成する素粒子)を記述するために不可欠です。
$SO(1,3)$ と $Spin(1,3)$ の違い
まず、厳密にはローレンツ群 $SO(1,3)$ はスピノル表現を持ちません。ローレンツ群 $SO(1,3)$ は、時空の回転やブースト(速さの変化)といった変換を記述する数学的な群です。なぜ $SO(1,3)$ がスピノル表現を持たないのかというと、スピノルは通常のベクトルでは表現できない特殊な性質を持っているからです。
それに対して、 $Spin(1,3)$ というローレンツ変換に対するスピノルの振舞いを記述する群があります。 $Spin(1,3)$ は、$SO(1,3)$ の「二重被覆群(double covering group)」と呼ばれるものです。これは、数学的に $SO(1,3)$ が $Spin(1,3)$ を $Z _ {2}$ で割った商群であるという関係で表されます。
$$SO(1,3) \cong Spin(1,3) / Z _ {2}$$
ここで $Z_{2}$ は、2つの元からなる巡回群であり、物理学的には「スピノルが $2\pi$ 回転の下でマイナス符号を拾う」という現象を象徴しています。ローレンツ変換の中の回転に注目すると、よく知られた関係 $SO(3)\cong SU(2) / Z _ {2}$ に対応しています。また、 $SO(3)$ と $SU(2)$ が同じリー代数 $su(2)$ を持ったように、 $SO(1,3)$ と $Spin(1,3)$ も同じリー代数 $so(1,3)$ を持ちます.
$Z_{2}$ とスピノルの特異な性質
この「マイナス符号を拾う」という点が、スピノルを理解する上で最も重要なポイントです。通常のベクトル、例えば時空の座標を表す $x^{\mu}$ のようなものは、空間を $2\pi$(360度)回転させても元の位置に戻ります。しかし、スピノルは $2\pi$ 回転させると元の値に $-1$ をかけた値になってしまい、$4\pi$(720度)回転させて初めて元の値に戻るという、非常に特殊な性質を持っています。この $Z_{2}$ が、そのマイナス符号の変化を表しているのです。
真の対称性の群
この世界にスピノルが存在するという事実は、真の対称性群が $SO(1,3)$ ではなく $Spin(1,3)$ であることを示しています。これは、もし我々の宇宙が記述されるべき対称性群が $SO(1,3)$ であれば、スピノルは存在し得ないということです。しかし、実際に電子のようなスピノルが存在し、その振る舞いが観測によって確認されているため、宇宙の基本的な対称性を記述する群は $Spin(1,3)$ であると考える方が、より正確に物理現象を説明できるということになります。
スピノルという特殊な物理量を記述するためには、 $SO(1,3)$ よりも $Spin(1,3)$ というより複雑な(しかし、より基本的な)数学的構造が必要なのです。

