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ローレンツ代数の基礎

  1. 場の量子論 - 3. 発展編 - 1. 超対称性 - 2. 超対称性代数 - 3. ローレンツ代数の基礎

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ローレンツ変換の生成子

スピノルを量子場の理論で導入する際の方法と、その背後にある数学的な構造について説明します。特に、ローレンツ変換と呼ばれる時空の変換を、生成子を使ってどのように表現し、そこからスピノル表現をどのように構築していくかという道筋を示します。

指数写像

まず、ローレンツ変換 $\Lambda$ は、次のような指数関数的な形で表現されます。

$$\Lambda = \exp \left( \frac{i}{2} \omega _ {\mu\nu} M^{\mu\nu} \right)$$

ここで、 $\omega _ {\mu\nu}$ はローレンツ変換(回転やブースト)を指定する6つのパラメータからなる反対称テンソルです。$M _ {\mu\nu}$ は、ローレンツ変換を生成する6個の $4 \times 4$ の反対称行列からなります。これらの行列 $M _ {\mu\nu}$ は、ローレンツ変換の「生成子」と呼ばれ、異なるローレンツ変換を生み出します。例えば、特定の生成子として $M^{01}$ や $M^{12}$ が具体的な行列の形で示されています。

$${(M^{01})^{\sigma}} _ {\rho} = i \begin{pmatrix} 0 & 1 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \quad \text{and} \quad {(M^{12})^{\sigma}} _ {\rho} = i \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}$$

定義によっては、 $\Lambda$ 以外の生成子を $M^{\mu\nu}$ としたり、 $M^{\mu\nu}$ の前についている $i$(虚数単位)がない場合などがあります。これらの $M _ {\mu\nu}$ の行列は、 $so(1,3)$ と呼ばれるリー代数の表現になっています。 $so(1,3)$ は $SO(1,3)$ と $Spin(1,3)$ のリー代数です。

ローレンツ代数の交換関係

リー代数の表現 $M _ {\mu\nu}$ は、当然そのリー代数を決定している交換関係を満たします。ローレンツ代数 $so(1,3)$ の交換関係は、次のように与えられます。

$$ [M _ {\mu\nu}, M _ {\rho\sigma}] = i { \eta _ {\mu\rho} M _ {\nu\sigma} - ( \mu \leftrightarrow \nu ) } - ( \rho \leftrightarrow \sigma) $$

ここで、$\eta$ はミンコフスキー計量テンソルであり、時空の幾何学を表します。第1項さえ覚えておけば、第2項からは反対称性からわかるようになっています。リー代数の表現 $M _ {\mu\nu}$ は $SO(1,3)$ の表現である ${\Lambda^{\mu}} _ {\nu}$ の生成子であり, $Spin(1,3)$ の表現の生成子ではありません。

スピノル表現

スピノル表現を構築するためには、まず「ガンマ行列」と呼ばれる特殊な行列によって定義される「クリフォード代数」を考察します。ガンマ行列 $\gamma^{\mu}$ は、次のような反交換関係を満たします。

$$\acomm{\gamma^{\mu}}{\gamma^{\nu} } = - 2 \eta _ {\mu\nu} \mathbf{1}$$

ここで $\mathbf{1}$ は単位行列です。このクリフォード代数から、ローレンツ代数の新しい表現を構築できます。これは、時空の対称性を記述するローレンツ群の表現論において、通常のベクトル表現とは異なる、スピノル特有の性質を捉えるために不可欠なステップです。

ローレンツ変換の分解

前述のローレンツ変換の生成子 $M _ {\mu\nu}$ を、より直感的に理解しやすい「回転」と「ブースト」という2種類の変換に分解し、それぞれの性質とそれらが満たす数学的な関係について詳しく説明します。ローレンツ変換は時空の対称性を記述するもので、物理学において非常に重要です。

ローレンツ変換の生成子を回転とブーストに分解

ローレンツ変換の6つの異なる生成子は、自然に3つの「回転」と3つの「ブースト」に分解されます。これらはそれぞれ $J _ {i}$ と $K _ {i}$ と表記され、以下のように定義されます。

$$J _ {i} = \frac{1}{2} \epsilon _ {ijk} M ^ {jk}$$

$$K _ {i} = M ^ {i0}$$

ここで $i, j, k$ は空間インデックスであり、1, 2, 3 の値をとります。$\epsilon _ {ijk}$ はレヴィ=チヴィタ記号であり、特に $\epsilon _ {123} = +1$ となります。 $J _ {i}$ は空間的な回転を記述し、$K _ {i}$ は時間と空間の混合であるブースト(相対論的な速度変化)を記述します。

回転行列とブースト行列の性質

回転行列 $J _ {i}$ はエルミート行列です。これは $J _ {i}^{\dagger} = J _ {i}$ という関係で表され、これにより回転がコンパクトな群を形成することが保証されます。コンパクトな群とは、その変換が有限の範囲内で完結するような性質を持つ群のことです。例えば、通常の回転は360度で元の位置に戻るため、コンパクトです。

一方、ブースト行列 $K _ {i}$ は反エルミート行列です。これは $K _ {i}^{\dagger} = -K _ {i}$ という関係で表され、これによりブーストが非コンパクトな群を形成することが保証されます。非コンパクトな群とは、その変換が無限に続く可能性のある性質を持つ群のことです。例えば、運動量はいくらでも増やすことができるため、ブーストは非コンパクトです。

ローレンツ代数における交換関係

ローレンツ代数から、これらの生成子 $J _ {i}$ と $K _ {i}$ が以下の交換関係を満たすことがわかります。

$$[J _ {i}, J _ {j}] = i \epsilon _ {ijk} J _ {k}$$

$$[J _ {i}, K _ {j}] = i \epsilon _ {ijk} K _ {k}$$

$$[K _ {i}, K _ {j}] = -i \epsilon _ {ijk} J _ {k}$$

これらの交換関係は、ローレンツ変換の非可換性(変換の順序を変えると結果が変わる性質)を数学的に記述しています。

  • 最初の関係は、2つの回転の合成が別の回転になることを示しています。これは、純粋な空間回転が $su(2)$ と呼ばれるリー代数の部分代数を形成することを意味します。

  • 2番目の関係は、回転とブーストの合成が別のブーストになることを示しています。

  • 3番目の関係は、2つのブーストの合成が回転になることを示しています。これは直感に反するように思えるかもしれませんが、特殊相対性理論において、異なる方向へのブーストを連続して行うと、最終的に空間の回転が生じるという「トーマス歳差運動」のような現象に対応します。

回転のリー代数

特に、回転 $J _ {i}$ が $su(2)$ 部分代数を形成することは、量子力学における角運動量の概念と密接に関連しています。これは、私たちが日常的に経験する3次元空間の回転群 $SO(3)$ が、群 $SU(2)$ を $Z _ {2}$ で割った商群に同型であるという事実と関連しています。つまり、数学的に $SO(3) \cong SU(2) / Z _ {2}$ の関係が成り立ちます。この関係は、回転がスピノルとどのように結びついているかを理解する上で重要な背景となります。

このように、ローレンツ変換の生成子を回転とブーストに分解し、それらの交換関係を調べることで、時空の対称性の数学的な構造がより深く理解できます。