SM(Standard Model:
標準理論)はQFT(場の量子論)によって記述され,重力を除くすべての素粒子とその相互作用を説明できると考えられている.自然界の4つの力はゲージボソンにより媒介され,SMで説明される電磁気力,弱い力,強い力を媒介するフォトン,ウィークボソン,グルーオンといったゲージボソンはスピン1だが,重力は量子化するとスピン2のグラビトンに媒介される. 各相互作用には場があり,ゲージボソンはその場の量子に対応し,場の量子は各場に対して1個とは限らない.例えばウィークボソンは
$W^{\pm},Z$
の3種類,グルーオンは8種類ある.場の量子の数は場の生成子の数で与えられ,特別な場では生成子が場のラグランジアンの対称性を表すユニタリ群に由来することがある. 場の対称性を表すユニタリ群は $U(1)$
,これに由来する生成子が1個あり,ゲージボソンはフォトン $(\gamma)$
1種類である.フォトンは質量0,電荷0,スピン1,ここから偏極状態が2個であることが導かれる. 場の対称性を表すユニタリ群は $SU(2)$
,これに由来する生成子は3個あり,その重ね合わせからゲージボソンは
$W^{\pm},Z$ の3種類がある. $W^{\pm}$ は質量80 GeV/c2^,電荷は $\pm e$
, $Z$
は質量90 GeV/c2^で電荷は0である.ウィークボソンのスピンは1で偏極状態は3個ある. 場の対称性を表すユニタリ群は $SU(3)$
,これに由来する生成子は8個あり,ゲージボソンは8種類のグルーオンである.グルーオンは核子間の引力に関わっており,質量0,スピン1で,2個の偏極状態を持つ.電荷は0だがカラーというチャージを持ち,グルーオン同士でも相互作用する. 相互作用,すなわちゲージボソンの交換に要するエネルギーは,ゲージボソンの質量
$m$ に対し $\varDelta{E}\sim mc^{2}$
である.ゲージボソンが存在できる時間は不確定性原理から
$\varDelta{t}\sim\frac{\hbar}{\varDelta{E}}$
,ゲージボソンの速度の上限は相対性理論から $c$ ,よって力の到達範囲は
$c\varDelta{t}\sim\frac{\hbar}{mc}$ 程度となる. 光子やグルーオンなど $m\to0$ なら $\infty$ ,ウィークボソンのように
$mc^{2}\sim\mathrm{GeV}$
では $10^{-18}\ \mathrm{m}$ 程度である.強い力は,カラー荷が離れれば離れるほど強い力で引き合うという閉じ込め効果により,カラー荷を持ったグルーオンの到達距離が $10^{-15}\ \mathrm{m}$ 程度となる.一方で核子間力のように,メソンと呼ばれる2次的な粒子によって媒介される強い力もあり複雑な挙動を示す. QFTでは素粒子は内部構造を持たず,数学的な点として扱われ,スピン
$\frac{1}{2}$
で重力を受ける.強い力を受けるクォークと強い力を受けないレプトンに分けられ,それぞれ3世代ある.世代が上の粒子ほど重く,低い世代に崩壊する. 電子 $e^{-}$ ,ミューオン $\mu^{-}$ ,タウ $\tau^{-}$ ,電子ニュートリノ
$\nu _ {e}$ ,ミューオンニュートリノ $\nu _ {\mu}$ ,タウニュートリノ
$\nu _ {\tau}$
の6種類とその反粒子が含まれる.カラーを持たないので強い力は受けないが,ニュートリノ以外の粒子は
$-e$ ,反粒子は $+e$
の電荷を持ち電磁相互作用をする.反粒子はニュートリノ以外のレプトンに限って,オーバーラインではなく右上の符号で表示する.ニュートリノは電磁気力や強い力を受けず,弱い相互作用のみ受けるため観測が難しい.電荷やカラー以外にレプトン数という量子数を考えることができ,レプトンの粒子に
$+1$ ,反粒子に $-1$
,レプトン以外に0を割り当てると,反応の前後でレプトン数が保存する. 電荷が $+\frac{2}{3}e$ のアップ $u$ ,チャーム $c$ ,トップ $t$ ,電荷が
$-\frac{1}{3}e$ のダウン $d$ ,ストレンジ $s$ ,ボトム $b$
,そしてそれぞれ電荷が逆符号の反粒子がある.また,それぞれの粒子はレッド
$R$ ,ブルー $B$ ,グリーン $G$
のカラーを持つことができ,反粒子は反カラー
$\overline{R}$,$\overline{G}$,$\overline{B}$
を持つことができる.但しカラーを足すと白色,電荷は整数電荷になる粒子しか存在できない.ゆえにカラーの組み合わせは,光の三原色1色ずつの組み合わせか,各補色3色の組み合わせか,1色とその補色の組み合わせ.束縛状態をハドロン,粒子反粒子対のハドロンはメソン,クォーク3個からなるハドロンはバリオンという.例:
$p=(uud)$,$n=(udd)$,$\pi^{0}=(u\overline{u}),(d\overline{d})$,$\pi^{+}=(u\overline{u})$,$\pi^{-}=(d\overline{d})$
. 素粒子に質量を与えるには別の場を用意する必要があり,スピン0,電荷0のヒッグス粒子を場の量子とするヒッグス場を宇宙全体で考える.各粒子の場とヒッグス場をカップルする相互作用項をラグランジアンに加え,自発的対称性の破れにより場の最低エネルギー状態が非零となることで質量を獲得する.これは空気抵抗のようなもので,ヒッグス場という空気との結合が大きい粒子ほど加速に抵抗を感じるということである. SMは電磁気力,弱い力,強い力(QCD, Quantum
Chromodynamics)から構成されているが,このうち電磁気力と弱い力を1つの力の別の側面とみる理論を電弱理論,さらにQCDも1つの力の別の側面とみる理論を大統一理論(GUT,
Grand Unified
Theory)という.これは,重力と天体運動を万有引力で統一的に説明しようとした試みと対応する.有効なGUTがあるなら大統一エネルギーがあるはずだが,高エネルギー状態でこれらの力が統合することから確かめられると考えられている. フェルミ統計(パウリの排他律)に従うフェルミオンとボーズ統計にしたがうボソンの対称性.スーパーパートナーという同じ質量のフェルミオンとボソンの対があるとされるが,実験ではそのような粒子は見つかっておらず何らかの理由で対称性が破れているか全く正しくないかもしれない. 素粒子物理学の言語は,3つの力を記述するQFTから前進して重力も含めた4つの力を記述する弦理論が主流となっている.QFTでは点として扱った素粒子を1次元に伸びる弦として扱い,その励起状態で異なる粒子を表す.QFTは特殊相対論と量子力学を考慮したが,弦理論は重力をよく記述する一般相対論と量子力学を考慮した理論である.相互作用の計算で発散を回避するため素粒子を点から弦に伸ばすと,弦のスピン2の状態が自然に出てくるためグラビトンはスピン2であることが分かっている.Simple Description
SM
力
電磁気力
弱い力
強い力
力の範囲
素粒子
レプトン
クォーク
ヒッグス機構
大統一
超対称性
弦理論
Basic Problems
知識の整理
QFTでは位置演算子と運動量演算子で正準交換関係を満たすか.
クォークとレプトンを全て答えよ.また各素粒子の電荷と世代を答えよ.
電磁気力,弱い力,強い力,重力それぞれを媒介するボソンとスピンを答えよ.また,質量がないものを答えよ.
電磁気力,弱い力,強い力の対称性を表すユニタリ群を答えよ.
陽子,中性子, $\pi$ メソンのクォークの構成を答えよ.また,カラーや電荷の組み合わせについての制限があればそれも答えよ.
$n\to p$ の $\beta$ 崩壊において,エネルギーの保存から右辺に加えることができる粒子は電子とニュートリノに限られる.ニュートリノを加える場合は電子ニュートリノとして,正しい $\beta$ 崩壊の式を完成させよ.また,なぜその式になったか簡単に説明せよ.
クォークの束縛状態を何というか.また,クォークの個数が2個のものと3個のものとでどのように呼び分けられるか.
質量を獲得するために導入する場をなんというか.また,その場の量子のスピンはいくらか.
解答例
満たさない.位置演算子はパラメータに降格し場が演算子として正準交換関係を満たす.
クォーク: アップ $\qty(u,+\frac{2}{3}e,1)$ ,ダウン $\qty(d,-\frac{1}{3}e,1)$ ,チャーム $\qty(c,+\frac{2}{3}e,2)$ ,ストレンジ $\qty(s,-\frac{1}{3}e,2)$ ,トップ $\qty(t,+\frac{2}{3}e,3)$ ,ボトム $\qty(b,-\frac{1}{3}e,3)$ .\ レプトン: 電子 $\qty(e^{-},-e,1)$ ,電子ニュートリノ $\qty(\nu _ {e},0,1)$ ,ミューオン $\qty(\mu^{-},-e,2)$ ,ミューオンニュートリノ $\qty(\nu _ {\mu},0,2)$ ,タウ $\qty(\tau^{-},-e,3)$ ,タウニュートリノ $\qty(\nu _ {\tau},0,3)$ .
電磁気力はフォトン $(\gamma)$ ,弱い力はウィークボソン $(W^{\pm},Z)$ ,強い力はグルーオン,これらはスピン1で重力を媒介するグラビトンはスピン2.質量がないのはフォトンとグルーオンとグラビトン.
電磁気力が $U(1)$ ,弱い力が $SU(2)$ ,強い力が $SU(3)$ .
$p=(uud)$,$n=(udd)$,$\pi^{0}=(u\overline{u}),(d\overline{d})$,$\pi^{+}=(u\overline{d})$,$\pi^{-}=(\overline{u}d)$ .カラーは足して白色となる組み合わせ,電荷は足して整数電荷となる組み合わせに限られる.
$n\to p+e^{-}+\overline{\nu _ {e}}$ 電荷保存とレプトン数保存.
ハドロン,クォーク2個はメソン,2個以上はバリオン.
ヒッグス場,スピン0.