大学物理

様々なトピックをひとつひとつ数式で

7.1.3.1 群と表現

Simple Description

定義

群 $G$ は積という2項演算が定義された集合 $G=\qty{a,b,\ldots}$ で,元同士 $a\in G$,$b\in G$ の積も元 $ab\in G$ という閉性を満たすものである.積は数字の掛け算のことではなく,群ごとに異なる定義のされ方をする.交換法則 $ab=ba$ を満たせばアーベル群という.群は次の性質を満たす.

  1. 結合法則: $a(bc)=(ab)c$ .

  2. 単位元の存在: $ae=ea=a$ .

  3. 逆元の存在: $aa^{-1}=a^{-1}a=e$ .

群の位数 $\abs{G}$ は群に含まれる元の個数,元 $a$ の位数 $\abs{a}$ は $a^{n}=e$ を満たす最小の自然数 $n$ である( $n$ が存在しないとき $\abs{a}=\infty$ とする).

例: 整数

整数は群の積を足し算とするとアーベル群をなしている.単位元は0,逆元は逆符号の元で,結合法則と交換法則が成り立つ.積を掛け算とすると群をなしていない. $\pm1$ 以外の逆元が存在しない,正の実数や0を除く実数は群の積を掛け算としてアーベル群をなしており,単位元は1,逆元は逆数で,結合法則と交換法則が成り立っている.

群の表現

群 $G$ の全ての元を群 $H$ の一部の元に対応付ける写像 $f$ が $f(a)f(b)=f(ab)$ を満たすとき $f$ を準同型写像という. $f$ が $H$ の全ての元と1対1で対応付ける全単射写像なら $f$ を同型写像という.群 $G$ の元 $a$ を線形演算子 $F(a)$ に対応付けた準同型写像 $F(a)F(b)=F(ab)$ を $G$ の表現という.

リー群

可微分多様体

群の位数が無限大の群の元を連続パラメータのセットで指定するとき $g=g\qty(\qty{\theta _ {i}})$ ,パラメータが有限個で各偏微分が定義される群をリー群という.全てのパラメータが0の元を $e$ とし, $X _ {j}=\eval{\pdv{g}{\theta _ {j}}} _ {\theta _ {i}=0}$ を生成子という.

ユニタリ群

生成子を $X=-i\eval{\pdv{g}{\theta}} _ {\theta=0}$ のようにエルミートにとると,パラメータ $\abs{\dd{\theta}}\ll1$ が十分小さい単位元の周辺では $g(\dd{\theta})\simeq1+i\dd{\theta}X$ .大きいパラメータ $\theta$ は $N$ 分割して $N$ 乗すれば次のようになる. $$\begin{aligned} \lim _ {N\to\infty}\qty(1+\frac{i\theta X}{N})^{N} & =\lim _ {N\to\infty}\sum _ {k=0}^{N}\frac{N!}{k!(N-k)!}\qty(\frac{i\theta X}{N})^{k} \\ & =\lim _ {N\to\infty}\sum _ {k=0}^{N}\frac{(i\theta X)^{k}}{k!}\qty(\frac{N}{N}\cdot\frac{N-1}{N}\cdots\frac{N-k+1}{N}) \\ & =\sum _ {k=0}^{\infty}\frac{\qty(i\theta X)^{k}}{k!}\qty(1\cdot1\cdots1)=e^{i\theta X} \end{aligned}$$ 生成子がエルミート $X^{\dagger}=X$ だから $U=e^{i\theta X}$ のエルミート共役は $U^{\dagger}=e^{-i\theta X}$ であり, $U$ はユニタリ $UU^{\dagger}=1$ である.

ベクトル空間

生成子はベクトル空間を張っており,生成子同士の線形結合が可能で基底の取り方は任意である.例えば,単位行列を含めたパウリ行列はエルミートな2次正方複素行列の直交基底であり,任意の行列がその線形結合で表せる.

リー代数

群の構造は生成子同士の交換関係 $\comm{X _ {i}}{X _ {j}}=if _ {ijk}X _ {k}$ で特徴づけられる.この交換関係をリー代数, $f _ {ijk}$ を構造定数という.パウリ行列 $\sigma _ {i}$ $\qty(i=1,2,3)$ では $\comm{\sigma^{i}}{\sigma^{j}}=2i\varepsilon _ {ijk}\sigma^{k}$ であった.

Basic Problems

問題 $n$ 次元ベクトルについて群の積をベクトル積としたとき,及び $n$ 次正方行列で群の積を行列の積としたときは群をなしているか.

解答例

$n$ 次元ベクトルのベクトル積は単位元が存在せず,結合法則も成り立たないため群をなしていない. $n$ 次正方行列は交換法則は成り立たないが,結合法則が成り立ち,単位元として単位行列が存在する.しかし,行列式が0だと逆元としての逆行列が存在しないため,群をなさず, $n$ 次正方行列のうち行列式が0でない行列に限った集合においては群をなす.

Standard Problems

ユニタリ性

問題 $U=e^{i\theta X}$ について $U^{\dagger}U=1$ を示せ.

解答例

$$\begin{aligned} \eval{\dv[n]{\theta}e^{-i\theta X}e^{i\theta X}} _ {\theta=0} & =\delta _ {0,n}\quad\therefore U^{\dagger}U=e^{-i\theta X}e^{i\theta X}=\sum _ {n=0}^{\infty}\frac{\theta^{n}}{n!}\delta _ {0,n}=1 \end{aligned}$$

キャンベル・ベーカー・ハウスドロフの公式

問題

$e^{A}Be^{-A}=B+\comm{A}{B}+\frac{1}{2}\comm{A}{\comm{A}{B}}+\cdots$ を示せ.

解答例

変換 $\text{adj}(A)$ を $\text{adj}(A)B=\comm{A}{B}$ で定義すると $$\begin{aligned} \eval{\dv[n]{t}e^{tA}Be^{-tA}} _ {t=0} & =\eval{\dv[n-1]{t}e^{tA}\comm{A}{B}e^{-tA}} _ {t=0}=\eval{\dv[n]{t}e^{tA}\qty(\text{adj}(A)^{n}B)e^{-tA}} _ {t=0} \\ \therefore e^{A}Be^{-A} & =\sum _ {n=0}^{\infty}\frac{1^{n}}{n!}\eval{\dv[n]{t}e^{tA}Be^{-tA}} _ {t=0}=\sum _ {n=0}^{\infty}\frac{\text{adj}(A)^{n}}{n!}B=e^{\text{adj}(A)}B \end{aligned}$$