ユニタリ変換は内積を保存するため,量子力学で扱う遷移確率を保存し物理法則を不変に保つため,場の量子論でも重要である.
$N\times N$ のユニタリ行列の群 $U(N)$ の部分群である $SU(N)$
は,生成子の数は $N^{2}-1$ ,同時対角化可能な演算子の数(ランク)は
$N-1$ である. $1\times1$ すなわち絶対値が1の複素数
$e^{-i\theta},\ \theta\in\mathbb{R}$ を元とする $U(1)$ はアーベル群
$e^{-i\theta _ {1}}e^{-i\theta _ {2}}=e^{-i\theta _ {2}}e^{-i\theta _ {1}}$
である. $U^{\dagger}U=1$ は明らかで,複素自由スカラー場のラグランジアン
$\mathscr{L}=\partial _
{\mu}\phi^{\dagger}\partial^{\mu}\phi-m^{2}\phi^{\dagger}\phi$
は $U(1)$ の元による変換 $\phi\to e^{-i\theta}\phi$ に対して不変(
$U(1)$ 対称性がある).電磁気学で $U(1)$
対称性と関係するゲージボソンは光子である.量子数 $a$ に関係する変換は
$U=e^{-ia\theta}$ のようになり,ハミルトニアン $H$ に対して
$U^{\dagger}HU=H$ で量子数 $a$ の保存を表す. ユニタリ $U^{\dagger}U=1$ で $\abs{U}=+1$ の $2\times2$ 行列の群 $SU(2)$
の生成子は $2^{2}-1=3$ 個あり,パウリ行列
$\frac{\sigma^{i}}{2}\ \qty(i=1,2,3)$ にとれる.
$$\sigma^{1}=\mqty(\pmat{1})\qc\sigma^{2}=\mqty(\pmat{2})\qc\sigma^{3}=\mqty(\pmat{3})$$ ランクは $2-1=1$ であり,実際,交換関係
$\comm{\frac{\sigma^{i}}{2}}{\frac{\sigma^{j}}{2}}=i\varepsilon _
{ijk}\sigma^{k}$
から同時対角化できるのは1個のみであるとわかる. $SU(2)$ の生成子が張るベクトル空間で $\vb*{x}$ を表示すると,その長さは
$$\begin{aligned}
\abs{\vb*{\sigma}\cdot\vb*{x}} & =\mqty|z & x-iy \\ x+iy &
-z|=-\abs{\vb*{x}}^{2}
\end{aligned}$$ $U\in SU(2)$ $\qty(\abs{U}=\pm1)$
によるユニタリ変換でベクトルの長さは保存する.
$$\abs{U^{\dagger}\vb*{\sigma}\cdot\vb*{x}U}=\abs{U}^{2}\abs{\vb*{\sigma}\cdot\vb*{x}}=\abs{\vb*{\sigma}\cdot\vb*{x}}$$ 3次元実ベクトル $\vb*{x}$
を,次式を満たす複素数の成分を持つベクトルであるスピノル
$\vb*{\chi}=\smqty(\chi _ {+} \\ \chi _ {-})$ で置き換えるとき, $SO(3)$
に代わって $SU(2)$ が回転を表す.
$$\vb*{\chi}^{\dagger}\sigma^{1}\vb*{\chi}=x\qc\vb*{\chi}^{\dagger}\sigma^{2}\vb*{\chi}=y\qc\vb*{\chi}^{\dagger}\sigma^{3}\vb*{\chi}=z$$
$SO(3)$ の生成子を $SU(2)$ の生成子 $\frac{\sigma^{i}}{2}$
に置き換えれば,回転の演算子は
$e^{-i\frac{\vb*{\sigma}}{2}\cdot\vb*{\alpha}}$ である. $SU(2)$ の生成子の交換関係は回転群 $SO(3)$ の
$\comm{J _ {i}}{J _ {j}}=i\varepsilon _ {ijk}J _ {k}$ と一致.しかし
$\vb*{\sigma}\cdot\vb*{\alpha}$ に $\frac{1}{2}$ がかかっているため,
$2\pi$ の回転で位相を逆転させる変換となる.したがって $SU(2)$ と $SO(3)$
は同型ではなく準同型である. 電弱理論で $SU(2)$ 対称性と関係するゲージボソンは $W^{\pm}$ と $Z$
ボソンであり,これらは弱い相互作用を媒介する. 強い相互作用を扱うQCD(quantum chromodynamics,量子色力学)で重要な
$SU(3)$ の生成子をゲルマン行列にとれる.生成子の数は $3^{2}-1=8$
で,このうち $\lambda _ {8}$
以外は,ブロック行列に1つのパウリ行列をもつトレースレスの $3\times3$
行列である. $$\begin{aligned}
\lambda _ {1} & =\mqty( & 1 \\ 1 \\ & & ), & \lambda _ {2} &
=\mqty( & -i \\ i \\ & & ), & \lambda _ {3} & =\mqty(1 \\ & -1
\\ & & ), & \lambda _ {4} & =\mqty( & & 1 \\ \\ 1), \\ \lambda
_ {5} & =\mqty( & & -i \\ \\ i), & \lambda _ {6} & =\mqty( \\ &
& 1 \\ & 1), & \lambda _ {7} & =\mqty( \\ & & -i \\ & i), &
\lambda _ {8} & =\mqty(1 \\ & 1 \\ & & -2)
\end{aligned}$$ ランクは $3-1=2$ で,ゲルマン行列では対角化可能な2個の演算子を
$\lambda _ {3}$ と $\lambda _ {8}$ にしている.交換関係
$\comm{\lambda _ {i}}{\lambda _ {j}}=2if _ {ijk}\lambda _ {k}$
におけるノンゼロの構造定数 $f _ {ijk}$ は
$$f _ {123}=1\qc f _ {458}=f _ {678}=\frac{\sqrt{3}}{2}\qc f _ {147}=f
_ {257}=f _ {345}=f _ {246}=f _ {165}=f _ {376}=\frac{1}{2}$$ リー群の生成子の非線形関数で全ての生成子と交換する演算子をカシミア演算子といい,その数は群のランクで与えられる.
$SU(2)$ のカシミア演算子は $2-1=1$ 個で
$\qty(\frac{\vb*{\sigma}}{2})^{2}$ である.Simple Description
$U(1)$
$SU(2)$
生成子数
ランク
ユニタリ性
回転
$SU(3)$
生成子数
ランク
カシミア演算子
Basic Problems
$SU(2)$ の回転行列
解答例
単位ベクトル $\vb*{n}$ について $(\vb*{\sigma}\cdot\vb*{n})^{2}=I$
より $$\begin{aligned}
\exp(-i\frac{\vb*{\sigma}\cdot\vb*{n}}{2}\alpha) & =\sum _
{n=0}^{\infty}\qty{\frac{(-1)^{n}I}{(2n)!}\qty(\frac{\alpha}{2})^{2n}-i\frac{(-1)^{n}\vb*{\sigma}\cdot\vb*{n}}{(2n+1)!}\qty(\frac{\alpha}{2})^{2n+1}}
\\ & =I\cos{\frac{\alpha}{2}}-i(\vb*{\sigma}\cdot\vb*{n})\sin{\frac{\alpha}{2}}
\end{aligned}$$ ゆえに
$\eval{e^{-i(\vb*{\sigma}\cdot\vb*{n})\frac{\alpha}{2}}} _ {\alpha=2\pi}=-I$
.
Standard Problems
固有スピノル
解答例
$\vb*{n}$ の方向のスピノルなら, $\vb*{n}$
方向の軸周りの回転で変化しない固有スピノルである. $\vb*{n}$
の極角と方位角をそれぞれ $\theta$,$\phi$ とし, $\sigma^{3}$
の固有値1のスピノル $\smqty(1 \\ 0)$ は $z$
軸方向を向いているから,これを $y$ 軸周りに $\theta$ , $z$ 軸周りに
$\phi$ だけ回転させれば得られる. $$\begin{aligned}
\vb*{\chi} & =e^{-i\frac{\sigma _ {3}}{2}\phi}e^{-i\frac{\sigma _
{2}}{2}\theta}\mqty(1 \\ 0)=\qty(I\cos{\frac{\phi}{2}}-i\sigma _
{3}\sin{\frac{\phi}{2}})\qty(I\cos{\frac{\theta}{2}}-i\sigma _
{2}\sin{\frac{\theta}{2}})\mqty(1 \\ 0) \\ &
=\mqty(\cos{\frac{\phi}{2}}-i\sin{\frac{\phi}{2}} & 0 \\ 0 &
\cos{\frac{\phi}{2}}+i\sin{\frac{\phi}{2}})\mqty(\cos{\frac{\theta}{2}}
& -\sin{\frac{\theta}{2}} \\ \sin{\frac{\theta}{2}} &
\cos{\frac{\theta}{2}})\mqty(1 \\
0)=\mqty(e^{-i\frac{\phi}{2}}\cos{\frac{\theta}{2}} \\
e^{i\frac{\phi}{2}}\sin{\frac{\theta}{2}})
\end{aligned}$$ これは確かに
$\vb*{\sigma}\cdot\vb*{n}=\smqty(n _ {z} & n _ {x}-in _ {y} \\ n _
{x}+in _ {y} & -n _ {z})$
の固有値1の固有スピノルである. $$\begin{aligned}
\mqty(n _ {z} & n _ {x}-in _ {y} \\ n _ {x}+in _ {y} & -n _ {z}) &
\mqty(e^{-i\frac{\phi}{2}}\cos{\frac{\theta}{2}} \\
e^{i\frac{\phi}{2}}\sin{\frac{\theta}{2}})=\mqty(\cos{\theta} &
e^{-i\phi}\sin{\theta} \\ e^{i\phi}\sin{\theta} &
-\cos{\theta})\mqty(e^{-i\frac{\phi}{2}}\cos{\frac{\theta}{2}} \\
e^{i\frac{\phi}{2}}\sin{\frac{\theta}{2}}) \\ &
=\mqty(e^{-i\frac{\phi}{2}}[\cos{\theta}\cos{\frac{\theta}{2}}+\sin{\theta}\sin{\frac{\theta}{2}}]
\\ e^{i\frac{\phi}{2}}[\sin{\theta}\cos{\frac{\theta}{2}}-\cos{\theta}\sin{\frac{\theta}{2}}]
)=\mqty(e^{-i\frac{\phi}{2}}\cos{\frac{\theta}{2}} \\
e^{i\frac{\phi}{2}}\sin{\frac{\theta}{2}})
\end{aligned}$$ より $(\vb*{\sigma}\cdot\vb*{n})\vb*{\chi}=\vb*{\chi}$
となった.