大学物理

様々なトピックをひとつひとつ数式で

1.3 イオン結合

大学で学ぶ程度の物性物理を端的明快に説明する物性物理学シリーズ.第1章は化学結合を解説します.今回は第3回.前回解説した共有結合に引き続いて,今回はイオン結合を解説します.

前回の記事はコチラ. univ-phys.hateblo.jp

イオン化エネルギーと電子親和力

定義

第1イオン化エネルギー $I$ を原子から電子を1個取り出すのに必要なエネルギー,電子親和力 $A$ を原子に電子を1個付加したときに放出されるエネルギーと定義する.

イオン結晶の形成

イオン化エネルギーの小さな元素と電子親和力の大きな元素を組み合わせるとイオン結合ができる.

共有結合との違い

イオン半径よりイオン同士が接近すると結合軌道と反結合軌道ができると,パウリの排他律により電子が反結合軌道に励起されるため強い反発力を生じる.したがってイオン半径に応じてできるだけ凝集する構造が決定され,典型的には $\mathrm{NaCl}$ 構造と $\mathrm{CsCl}$ 構造をとる.

結晶のエネルギー

イオン間相互作用

1価のイオン $i$,$j$ が距離 $r _ {ij}$ にあるときのクーロンポテンシャルは $\varphi _ {ij}=\pm\frac{e^{2}}{4\pi\varepsilon _ {0}r _ {ij}}+\frac{B}{r^{n} _ {ij}}$ と書ける.電子雲間の斥力 $\frac{B}{r^{n} _ {ij}}$ は量子力学的に解いて $B$ と $n$ を求めればよいが,実測値からフィットすることが多い.

マーデルング定数

すべてのイオンとイオン $i$ のクーロンポテンシャルは $\varphi _ {i}=\sum _ {i\neq j}\varphi _ {ij}$ であり,イオン間隔 $r$ に対して $r _ {ij}=rp _ {ij}$ とおいて $A=\sum _ {i\neq j}\frac{\pm1}{p _ {ij}}$ をマーデルング定数と呼ぶ. $N$ 個のイオン対の結晶の全ポテンシャルエネルギーは $\Phi=N\varphi _ {i}=N\qty(-\frac{e^{2}A}{4\pi\varepsilon _ {0}r}+\frac{B}{r^{n}}\sum _ {i\neq j}\frac{1}{p _ {ij}^{n}})$ となる.

イオン結晶の電気伝導

$\mathrm{NaCl}$ 構造なら $A=1.748$ , $\mathrm{CsCl}$ 構造なら $A=1.763$ をとる.イオン結晶では大きなエネルギー(~10 eV)を供給しない限り電子がイオン間を自由に動き回ることはないため絶縁体であるが,結晶に格子欠陥があれば高温でイオン伝導は起き得る.

電気陰性度

ポーリングの電気陰性度

第1イオン化エネルギー $I$ と電子親和力 $A$ という2個のパラメータでイオン結合のしやすさを見積もってきたが,これらを統合したのがポーリングの電気陰性度 $X=0.184(I+A)$ である.これが大きい原子は結合手上の電子を引き付ける傾向が強く常に陰イオンとなる.

イオン性の尺度

多くの固体の結合はイオン結合と共有結合の中間的な結合状態にあり,電気陰性度はその尺度である.2原子間の電気陰性度の差が大きいほどイオン結合性が大きいことになり,純粋な共有結合は単体の固体でのみ存在することがわかる.

イオン結合と共有結合の対比

共有結合は原子間に電子が溜まるのに対しイオン結合では電子密度は原子付近に集中する.電子軌道が重なり反結合性軌道が生じると強い反発力が生じてしまう.


ご意見やご感想をお待ちしています.次回も物性物理学シリーズをお送りしますのでお楽しみに!