$yz$ 平面に対する鏡映操作 $\sigma$ は行列
$\smqty(-1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1)$
で表されるが,(適当な座標系で)単一の座標成分の符号変化として表せるので可約表現であり,既約表現として同値な1次元行列表現
$\qty[(-1)x; (1)y; (1)z]=(-x;y;z)$ がある. 2回軸も1次元的,3,4,6回軸は適当な座標系で2個の座標の変化を伴うため2次元的な既約表現をもつ. ハミルトニアン $\mathscr{H}$
が鏡映対称性か2次の回転対称性をもつとき,対称操作 $\sigma$,$C _ {2}$
とハミルトニアン演算子 $\mathscr{H}$
の順序を入れ替えられるから同時固有状態をもつ. $\sigma^{2}=C _ {2}^{2}=E$ より $\sigma$,$C _ {2}$ の固有値は $\pm1$
に限られ対応する固有状態を $\psi _ {\pm}$ で表せる. すなわち $\mathscr{H}$ が対称的なら $\psi$
は対称的か反対称的となり,パリティが偶または奇であるという.例えば結合軌道は偶,反結合軌道は奇のパリティの固有状態である. $\mathrm{H} _ {2}\mathrm{O}$ の振動モードを考えると,3原子を含む面 $A$
と,$\mathrm{O}$ 原子を真っ二つにする分子の二等分面 $B$
に対して対称か反対称に動ける.鏡映面内の原子の振動は反対称的なら法線方向,対称的なら面内の振動である.以下
$B$ に対して対称か反対称であることは前提とする. 3次元剛体回転3個のうち面内回転を除く2個と,法線方向の並進運動1個の計3自由度. 面内回転1個,面内の独立な2方向の並進運動,分子内振動3個1の計6自由度2. $C _ {3}$ の対称性をもつ $\mathscr{H}$ の固有状態 $\psi$ に対して
$C _ {3}\psi$ も固有状態であり, $C _ {3}\psi\propto\psi$
(=縮退していない)なら $\psi$ も $C _ {3}$
に関して完全に対称で,1次元の既約表現をもつ.そうでない場合は,
$\mathscr{H}$ の同じ固有値 $E$ に対して独立な状態 $\psi$ と
$C _ {3}\psi$ が存在するから二重に縮退しており既約表現は2次元的である. 2次以上の回転軸の点群はこのような縮退準位をもつ.ダイヤモンド格子,面心および体心立方格子はそれぞれ点群
$T _ {d}$,$O _ {h}$
に属しており,正四面体・正八面体的対称操作は3つの座標を変えるため3次元的な既約表現をもち三重縮退を伴う. 対称性に加え $\mathscr{H}$ の形による縮退も存在し,磁気量子数 $m$
の縮退は対称性に由来するが,角運動量の量子数 $l$ は $\frac{1}{r}$
の形状のポテンシャルに由来する縮退である. 結晶の対称性は材料の物性を表すテンソルの独立成分の数を決定し,熱膨張率や磁化率などの2階のテンソルで立方対称なら1つ,六方対称なら2つの独立成分に制限する.対称操作
鏡映面
回転軸
ハミルトニアンと波動関数の対称性
同時対角化
固有値
パリティ
水分子の振動モード
固有状態の対称性
$A$ に対して反対称な振動
$A$ に対して対称な振動
対称性と縮退
2次元既約表現をもつ $C _ {3}$
既約表現の次元と縮退
対称性以外の縮退
対称性とテンソル成分